積極的不登校という選択

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それは絵本から始まった
いじめにあい、軽い人間不信になったというけんとさんだが、それをどうやって克服したのかという問いに対しては、いくつかの要因があると答えた。
「まず、不登校に対して、親がネガティヴなことを言わなかったこと。そして、近所に友達がいて、遊ぶことが出来たのも幸いでした。
あとは、母が僕を外に連れ出してくれ、あるイベントに行った時に、『不登校なら、その時間を有効に使って、やりたいことをやればいいのでは?』と、不登校をポジティヴにとらえてアドバイスしてくれる、ナナメの関係の大人と出会えたことも大きかったです」と分析する。
よく言われることだが、不登校のこどもにとっては、親以外で理解してくれる、ナナメの大人の存在はとても重要だ。
そうした出会いのあと、どんな経緯で絵本を製作、販売に至ったのかを聞いてみた。
「僕、いじめられていた時よりも、不登校になってからのほうが辛かったんです。今まで戦ってきた時間はなんだったのだろうと、モヤモヤし続けました。
学校に行かなくなって、辛いイジメを受けなくてすんでいるはずなのに、こんな風に自分だけ勉強しないでいいのだろうか? などと、考え出すと、不安でモヤモヤして、パニック障害を起こして、もう本当に負のスパイラルでした。
その辛いモヤモヤを吐き出すために、絵を描いたり、いじめって悲しいよね、といった内容の絵本をつくり始めました」

その絵本を、両親や友達に見せたところ好評で、イベントで販売するようになったという。
イベント会場では、目の前を人が通るたびにドキドキしたが、絵本を買ってくれたり、褒めてくれる人もいて、沢山の人に応援してもらったという。
「その出来事が、僕の世界を見る目を変えてくれました。学校生活では、自分を否定する人が多く、人間不信になりましたが、絵本を通して多くの方とつながることで、世の中は僕を否定する人ばかりじゃないし、学校だけが世界のすべてではないと気づいたのです」

絵本をつくって販売する、という社会的な活動をしたことで、学校や友達という狭い世界にとらわれていた心が、広く温かい世界にシフトチェンジしたのだった。
なお2021年2月現在、この絵本の出版化にむけて準備が進められている。
積極的不登校という選択
6年生まで、イベントで絵本を販売していたけんとさんだが、そのあとの活動について聞いてみた。
中学生になるタイミングで、「また学校に行きたい」と思ったけんとさんは、以前と同じ友達のいる学校には行きたくないと考え、自身の自閉症という脳の特性もあり、こんどはADHDの子供が通うようなクラスを選んだ。
そこでの学校生活はとても楽しいものだったが、中学1年の3学期ころから、再び不登校気味になっていった。
「ちょうどその頃、僕が尊敬する方が、その方の著書を30冊買ったら遊びにいくよ、とSNSで発信していたので、その方に来ていただき、初めて講演会を主催しました。」
それまでも、様々なイベントのスタッフや運営として手伝う間に、その楽しさに目覚めていたのだが、その講演会の主催が、新たな不登校のきっかけとなった。
「小学校時代の不登校の間、勉強はホームスクーリングでしていたので、中学でも勉強は自分でできると思いました。学校もとても楽しかったのですが、それよりもイベントの運営スタッフなどを通して、外の世界とつながる楽しさを選びました。」
同じ不登校でも、今度は積極的不登校とでもいうような、やりたいことをやるために、前向きに選択した不登校だった。
「初主催の講演会来場者数は50名ほどだったのですが、最後の挨拶で、次にやりたいことを聞かれて、【こどもばんぱく】のコンセプトをお話しました。

僕は、こどもによる、こどものためのイベントをやりたいという希望を述べたつもりだったのですが、多くの方が、実際に開催する方向で動いてくださって、実現に至りました。」と、語った。
アウトプットして種を蒔いたことで、また次なる芽が出るきっかけを掴んだのだ。
一方で、「 【こどもばんぱく】 は、最初の講演会とは比べられない規模になり、お金の心配とか、できるだろうかという不安もありました。
こんな大きなことを始めてしまって、批判されるんじゃないか、とか、賛同してくださる方がいないのではないか、とか、色々考えたのですが、実際にやってみたら本当に沢山の方が応援してくれて、自分が勝手に脳内で決めつけていただけ、心配し過ぎていただけだったとわかりました。」と、当時の心境を振り返る。
【こどもばんぱく】 の来場者は、2018年、けんとさんが中学2年生の時に開催した1回目が1000名、2回目は3500名、3回目の去年はオンライン開催で900PVと、合計5400名の方が参加した大きなイベントとなった。

今年からは、主催を他のこどもにバトンタッチしたいと考えているけんとさんに、そんな大きなイベントを開催するようなリーダーになるこどもに、求められる資質について聞いてみた。
「僕自身はリーダー然としているわけではなく、どんどん人に頼ってしまおうと、意識してやってきました。ネーミングセンスもないので、こどもばんぱくという名前もつけていただきました。
次に開催する人に対して求めることは特になくて、その人はその人なりのやり方でやればいいし、むしろ僕はその人らしいこどもばんぱくを見たいと思っています。
僕は要領が悪いので、不登校で時間があるからこそ出来たと思いますが、上手に時間を使える人なら誰でもできると思います。」と、自身のやり方に固執せず、次なるリーダーを尊重する姿勢を示した。
影響を受けた人は?という質問に、生きて出会ってきた人すべて、と答えるけんとさん。
絵本を売る経験で世界の見かたが変わり、積極的不登校を選択して、こどもばんぱくで挑戦する体験を手に入れたという彼は、そうした過程で出会った人すべてに感化されて、今の自分があるのだという。
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