かかりつけ弁護士のすすめ

Vol.2 弁護士 光野真純さん
私達の生活にまだまだ馴染みの少ない、弁護士という存在。
「弁護士に相談」というと争い事のイメージが強いのですが、光野真純さんは、「かかりつけ弁護士」を提唱します。お困りごとを前向きに解決する「かかりつけ弁護士」とはどんな存在なのか、伺ってみました。
Contents
異色の弁護士ができるまで
「『ちょっと、そこは通っちゃだめだよ』ってよく言われるんです」と、いたずらっ子みたいな目で、光野さんは笑う。
確かに、目の前の彼女は、法廷といういかめしい場所には似つかわしくない外見だ。
明るくカラーリングした髪に、美しく彩られたネイル、そして最新のモードに身を包んでいるその様子は、弁護士というよりもデザイナーと言った方がしっくりくるかもしれない。
仕事で法廷に行くとき、弁護士用の通路を通ろうとすると、一般の傍聴人と間違えられて、警備員に呼び止められるというのだ。
その見かけでなぜ弁護士に? と、弁護士をステレオタイプにとらえている自分を恥じながらも、ついつい聞かずにはいられなかった。
すると、やっと彼女の外見と弁護士を結ぶ接点が見えてきたのだった。
「母が昔、パリコレで活躍する日本人デザイナーのパートナーとして仕事をしていた時に、法律的な問題で大変な苦労をしていたのです。当時大学生で法学部に通ってはいましたが、まだ将来を決めかねていました。でも、その一件から、弁護士になろうと思ったのです」と、光野さんは答えた。

― なるほど、お母様がファッション業界でお仕事をされていた影響で、光野さんもファッショナブルなのですね。でも、そもそもなぜ法学部に入られたのですか?
「両親が共働きだったため、小学校時代、放課後は祖母の家で過ごすことが多かったのです。その時に祖母とよく見ていた刑事ドラマの刑事に憧れたのが、弁護士になるきっかけでした」
― 最初は刑事になりたかった?
「そうなんですよ。ドラマで見る刑事さんはとてもかっこよかったので。でもある時母が、『検察官の方がいいんじゃない?』と言ったのです。
その一言で、単純に『あ、そっか。検察官の方がかっこいいかも』と思ってしまって(笑)
今思えば、とても単純なのですが、その親の一言で人生が決まりました。」
中学、高校を通じて法学部を目指し、一浪して大学の法学部に入学した。
弁護士や検察官などの法律家を目指す場合、一般的には大学入学後、すぐに法律家の予備校に通うのだが、光野さんは三年生まで普通の大学生のように、予備校には通わず楽しく過ごしていたという。
そんなころ、お母様の会社でトラブルが起こったのだった。
― どんなトラブルがあったのでしょう?
「当時は裏原系のブランドが全盛期のころで、母の会社のデザイナーがパリコレに進出することになりました。海外のモデルエージェントと契約トラブルがあったり、商標でもめたりして大変な状態になってしまったのです。海外の企業が相手だったので、日本の大手の弁護士事務所に頼んで、かなりの金額をかけて解決してもらいました。
今にして思えば、果たしてそこまでお金をかけるべきだったのかは疑問ですが、当時法学部の学生だった私は、『中小のアパレル企業と法律を結ぶ人がいたらよいのではないか』と思ったのです」
医者が色々な科を経験してから専門を決めるように、法律家にも、修習と言われる制度がある。
司法試験に合格して、弁護士、検察官、裁判官を一年ずつ修習して、最終的に職業を決めるのだが、光野さんは、お母様の会社の一件から、ファッション知財専門の弁護士への道を歩むことになったのだという。
「知財」の概念を広めたい

― ファッション知財という言葉は耳慣れないのですが、どのようなことか教えていただけますか?
「はい。そもそも『知財』自体がまだ一般的な言葉ではないかもしれませんね。
特にファッションにおいては知的財産の保護が難しい場合が多いのですが、わかりやすく言えば、デザイナーが生み出した作品をコピーから守る、ということでしょうか。」
― なるほど。コピー製品の問題は大きな社会問題にもなっていますね。関わった事件で実例があれば教えていただけますか?
「はい。コピー製品というと大手ブランドの問題と思われるかもしれませんが、意外に身近なところでも問題が起きています。
以前、大学生の方から、インスタグラムにアップした自分のデザインを盗用されたというご相談を受けたことがあります。自分のデザインが、タトゥーシールとして使われていたという件でした。
このような場合、①使用を差し止める ②売上に対してパーセンテージを決めて利益を受け取る ③デザインを買い取ってもらう などの方法があります。
しかし、その方は『まだ自分は大学生なので、裁判などになると大変だし、イラストにクレジットをつけていなかった自分も悪かったから』ということで、相手企業のお客様窓口に使用差し止めの連絡をしただけで終わりました。
でも、この大学生の方はまったく悪くなくて、デザインを盗用する企業が悪いのです。
日本は、こうした権利意識が低いので、ファッションの専門学校などでも、もっとファッション知財に関する教育をしていけたらと考えています」
弁護士として働くだけでなく、広く一般の認知も変えていきたいと語る光野さんだが、そうした想いは、知財以外の仕事でも感じることがあるのだろうか?
弁護士という仕事を通して伝えたい想い、大切にしていることをうかがってみた。

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