かかりつけ弁護士のすすめ

だれのため、なんのための弁護士なのか
― お仕事を通して伝えたいこと、大切にしていることを教えていただけますか?
「はい。目先の利益よりも、クライアントがどうすることが、その方にとって一番良いことかを俯瞰するようにしています。そして、クライアントにベストな提案ができるように努めています」
― これは良い提案だった、というような実例があれば教えていただけますか?
「はい。よくある事例では離婚の慰謝料でしょうか。夫が浮気をしたので離婚をしたいというケースでは、慰謝料を請求したいと望まれる方が多いのですが、日本では、慰謝料はせいぜい100万円から150万円くらいのものです。それよりは、別居してその間、夫に婚姻費用(子供がいれば養育費)を、月に10万円程度(収入によって違う)支払ってもらったほうが良い場合があります。
依頼人は、最初はいきり立っているのですが、離婚してすぐに再婚したいお相手がいないのなら、数年間の別居期間に次の準備もできるので、この方法の方が良い場合もあると伝えています」
なるほど、怒りにまかせて慰謝料を請求するよりは、冷静にあとの人生設計をしたほうが得策というアドバイスは、的を得ているが、こうした感情が絡む問題は難しいことも多いのではないだろうか?
― 人間関係の感情論と法律のバランスは難しいと感じるようなケースはありますか?
「はい、最近は夫の育児参画が一般的になってきたこともあり、離婚の際の親権をめぐる争いが増えています。ひと昔まえは、親権は当たり前のように母親にあると考えることが多かったのですが、最近は父親が親権を要求することが増えてきました。ただ、その目的が子供の幸せでないケースも見受けられます。例えば、妻の浮気が原因で離婚する場合などに多いのですが、夫が本当に子供のことを想って、ではなく、離婚した妻への復讐から親権を求めるような事例も見受けられます。」
― 子供が争いに使われるのは悲しすぎますね。そうしたケースではどのような対応をされるのですか?
「もちろん、クライアントの要求に応じて動いていきますが、それでも『本当に、お一人で育てていくことは出来ますか?』とか、『奥様への憤りから、親権請求をしているのではないですか?』といったようなことをお尋ねして、真意を確認しています。親権は親の復讐の道具ではなく、あくまでも子供の幸せのためにあるのですから」
法律では「子の福祉」という言葉で記されているというが、時代が変わるにつれ、家族の在り方や価値観も変わり、親権裁判の判例も変わっていくのだという。だが、いつの時代であっても、子供の幸せが最優先されなければいけないことに変わりはないと、光野さんは語った。
こうした夫婦間の感情のもつれも大変だが、お金が原因で感情のもつれに発展するビジネスの争いも多いだろう。今度はそうした事例について尋ねてみた。
― ビジネスにおいても、お金が原因の感情のもつれもあると思いますが、そうしたケースで良い提案ができた、という事例があれば教えていただけますか?
「はい、同じ金額を支払うのでも、前向きに支払えた、という事例をお話します。ある企業の下請け企業が、システムを作り、元請け企業はそのシステムをアップデートして使っていました。
ところが下請け企業が、システムの権利を主張し元請けを訴えて、訴えられた元請けは弁護士に相談したのですが、その弁護士では、訴えられた内容が認められそうという状況でした。
その後、私のところにご相談いただいたので、そのシステムを下請けから買い取るという方法をご提案し、前向きな「買い取り」という方法で和解ができ、解決がなされました。
同じ数百万支払うのでも、損害賠償で払うのと、買い取り代金として払うのとでは、その後のシステム使用においても違いが出てきますし、何より気分が違いますよね。
このように前向きな解決ができるのが良い仕事だと思っています。」
確かに仕事においては、トラブルを金銭で解決することも多いだろうが、同じ支払うのでも、目的が違うとまったく違ったものになる。
こうしたポジティブな解決法を探していくのもまた、弁護士の重要な価値だという説明には深く納得したのだが、次に、ちょっと意地悪な質問もしてみたくなった。
― 法律がポジティヴに使われる良い例をうかがいましたが、逆にネガティヴになってしまうというケースはありますか?
「登録商標で、とても残念なケースがあります。とある、よく見かける一般的なマークを商標登録して、商標侵害を訴えてお金をとっている、団体があります。
そうしたことをしても、世の中のためにはならない。自分の権利をまもることと、商標登録制度を悪用して、ビジネスの道具、お金を生み出す道具として使うことは違います。
そうしたやり方には疑問を感じますが、法律で定められていることに違反しているわけではないので、どうしようもないのです」
権利を守ることと、仕組みを悪用されることは、諸刃の刃いうことなのだろうが、たとえ法律といえども完璧ではないので、それを使う人間の本質にかかっているというのは、弁護士である光野さんにとって、痛いほど実感していることなのかもしれない。
さて、これまで、弁護士という職業について質問してきたが、今度は、その弁護士とどのように付き合っていけばいいのかをうかがってみよう。
かかりつけ弁護士のすすめ

― 弁護士に相談する、というのはなかなかハードルの高いことに感じますが、一般の人は弁護士とどのように付き合えばいいのでしょうか?
「私はよく医療に例えるのですが、末期がんになってから来られても遅くて、最良の対応が出来ない場合があるので、出来れば定期検診で来て欲しい。それが無理なら、せめて風邪くらいの時に来て欲しいとお伝えしています」
何かトラブルがあった場合「いついつまでに○○しないと法的にうんぬん」などという書面を受け取ると、普通の人は焦ってしまい、よくリサーチせずに弁護士を決めてしまうことが多いという。
そもそもリミットにも、無視していいものと、絶対に無視してはいけないものがあるそうだが、そうした事態に陥った場合どうしたら良いのだろうか。
― そうは言っても、トラブルになってから急に弁護士を探すという場合が多いのではないかと思いますが、良い弁護士の見分け方というのはあるのでしょうか?
「医者にセカンドオピニオンを尋ねるのと同じで、二人くらいの弁護士に聞いてみると良いと思います。
例えばテレビの「行列のできる弁護士」のなかでも弁護士の意見がわかれる場合があります。もちろん全員しっかりとしたキャリアのある弁護士ですが、それでも人によって意見が違うのです。ですから、納得できるまでご自分の考え方に近い弁護士を探してみると良いと思います。」
― 医者と同じ、というのはわかりやすい例えですね。では、逆に「こうした弁護士はやめた方がいい」というのを教えていただけますか?
「『絶対負けない!』とか、『○○万円取れる!』といった、派手な広告を打って断言しているような弁護士はおすすめしません。良いことばかりを言うのではなく、デメリットも先に伝えてくれる弁護士が良い弁護士だと言えます。
どんな案件でも『絶対』はないので、クライアントにもたらされるかもしれない最大のデメリットを先に伝えておくのは大切なことです。
弁護士とクライアントは、お互いの信頼関係を築けることがとても重要です」
― かかりつけ医のような、相性の良い、かかりつけ弁護士がいると安心とのことですが、そうしたかかりつけ弁護士は何をやってくれるのでしょう?
「例えば、顧問契約を結ぶとトラブル相手とのメールの文章まで作成したりしますので、細やかな対応ができます。すると、大きな問題になる前にトラブルの芽を摘む事もできるのです。
顧問弁護士とまでいかなくても、ご相談だけでも、意外な解決法が見つかったりもするので、気楽にご相談いただけるといいと思います」
弁護士を、ちょっと悩みを相談できる対象として見たことはなかったが、光野さんのような話しやすい弁護士ならば、気楽にお願いできそうだ。
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